東京高等裁判所 昭和53年(ネ)475号 判決
一 控訴人は、建設機械の販売等を目的とする会社であるところ、昭和五一年三月中旬ころ、株式会社多田野鉄工所から本件自動車一(原判決添付物件目録一記載自動車)を、また川崎重工株式会社から本件自動車二(同目録二記載自動車)を、それぞれ買い受けて所有権を取得したこと及び右各自動車は被控訴人が占有していることは、当事者間に争いがない。
被控訴人は、控訴人が取得した本件各自動車の所有権はすでに被控訴人に移転しているか、そうでないとしても、控訴人が被控訴人に対し所有権に基づいて右自動車の引渡しを請求することは、権利の濫用に当る旨抗弁するので、以下に右抗弁について判断する。
二 控訴人と上越建機(上越建機実業株式会社)との間で、昭和五一年四月一六日本件各自動車につき、代金完済時までの所有権留保その他の控訴人主張の約定のもとに、控訴人から上越建機に売り渡す旨の本件取引が成立したことは、当事者間に争いがない。そして、≪証拠≫を総合すれば、次の事実を一応認めることができる。
1 控訴人は昭和四八年三月新潟出張所を開設し、株式会社多田野鉄工所、川崎重工業株式会社その他の製造業者(メーカー)の製造する建設機械類の取扱い商社(第一次販売業者、いわゆるデイーラー)として、新潟県内における市場の開拓拡張を図っていた。
2 上越建機は、新潟県上越市に所在し、建設機械その他の販売を目的とする会社であって、当初、株式会社トーメンから仕入れた機械類を、第二次販売業者(いわゆるサブデイーラー)として他に転売することを主たる営業としていたが、昭和四九年ころ控訴人(新潟出張所)から、同社との取引を誘引されて、そのころから同社との取引を始め、同社の販売店として販路拡張に協力した。
3 上越建機が控訴人となす取引は、控訴人から機械類を仕入れてこれを転売する場合及び控訴人と顧客(いわゆるユーザー)との直接の売買を斡旋仲介する場合があり、稀には控訴人から機械を購入してこれを他に賃貸(いわゆるリース又はレンタル)することもあった。そして、右のうち転売の場合には、上越建機があらかじめ顧客と売買契約をし、しかる後に控訴人からその目的物件を買い付ける、いわゆる出来合取引の方式によるのが常であった。
4 ところで、昭和五〇年一〇月ころ上越建機の常務取締役対馬恭爾は、社員の白鳥某と共に、かねてから取引のあった被控訴人に対して建設機械の売込み交渉をした結果、同年一一月二二日ころ、被控訴人が川崎重工業製ショベルローダー一台を、代金一、五五〇万円で買い取り、右代金の支払方法は被控訴人所有のブルドーザー(小松D―五〇A)一台を二五〇万円と評価して上越建機が下取りし、残額一、三〇〇万円は昭和五一年五月ころまでの間に五回の割賦により支払うとの商談が調った。そこで上越建機は、右目的物件の取扱い商社たる控訴人との契約締結に先がけて、製造元の川崎重工業と交渉し、その諒解のもとに、本件自動車二につき、昭和五〇年一一月二九日、所有者を川崎重工業、使用者を被控訴人とする新規の登録がなされ、そのころ同車が被控訴人に引き渡された。そして、上越建機と被控訴人との間で昭和五一年一月一〇日右売買につき契約書(疏乙第四号証)が作成調印された。ところで右契約書は、上越建機が株式会社トーメンから機械を仕入れて転売する場合のために、同社が用意した「所有権留保条件付売買契約書」用紙を流用して作成されたものであり、したがって同契約書には、物件の所有権は被控訴人から代金が完済されるまで第一次販売店である株式会社トーメンに留保され、代金が完済されたとき株式会社トーメンの発行する販売譲渡証明書の交付をもって最終的に買主たる被控訴人に移転する旨の印刷された記載があるが、右契約当事者間では、株式会社トーメンによる所有権留保云々の文言は意味がないものとして取扱われ、被控訴人側では代金完済まで所有権が川崎重工業に留保されるが代金が完済されれば被控訴人は完全に所有権を取得しうるとの趣旨に理解していた。
5 ついで、上越建機は昭和五一年三月一〇日ころ被控訴人との間で、多田野鉄工所製クレーン車一台を代金一、五五〇万円で被控訴人に売り渡し、被控訴人所有の油圧クレーン一台を一〇〇万円に評価して上越建機が下取りし、残額一、四五〇万円は同年九月一〇日までの間に六回にわたる割賦により支払うとの商談をまとめ、多田野鉄工所の諒解により、本件自動車一につき同年三月一六日に所有者を多田野鉄工所、使用者を被控訴人とする新規登録がなされ、そのころ同車が被控訴人に引き渡された。そこで、上越建機は被控訴人との間で、右売買につき同月二四日契約書(疏乙第三号証の一)を作成調印したが、これも前回同様、株式会社トーメン用の「所有権留保条件付機械割賦販売契約書」用紙を流用して作成されたものであり、被控訴人側では代金完済まで本件自動車一の所有権が多田野鉄工所に留保されるが、代金が完済されれば被控訴人は完全に所有権を取得しうるものと理解していた。
6 上越建機は被控訴人との間の右各売買契約が成立した後、控訴人との間で、前記争いのない本件各取引をしたものであり、右各取引について控訴人及び上越建機間に作成された契約書は、控訴人が直接顧客に売り渡す場合の「機械割賦販売並びに使用貸借契約書」用紙を利用したため、その四条に、物件を上越建機に引き渡して使用させるが、上越建機が売買代金を完済するまで所有権を控訴人に留保する旨、また七条に、上越建機は控訴人の承諾なく、転貸、使用権の譲渡、名義貸、質入その他一切の処分行為をしてはならない旨が記載されているが、控訴会社新潟出張所建設機械販売担当者森田昌彦は、さきに上越建機と被控訴人との間で売買契約が締結されていて、すでに本件各自動車が被控訴人に引渡されていることを認識していた。もっとも、控訴人には、代理店、特約店その他第二次販売業者(サブディーラー)を通じて顧客(ユーザー)に売り渡す場合の「機械割賦販売契約書」用紙が備えてあり、右用紙は控訴人、中間販売業者及び顧客の全員が契約当業者となる形式のものであったが、右新潟出張所では、本件取引以前から、上越建機が他に転売する目的で控訴人から建設機械を購入する場合でも、右用紙を使用せず、控訴人が顧客に直接売り渡す場合の「機械割賦販売並びに使用貸借契約書」用紙を使用していた。
7 被控訴人の上越建機に対する本件各自動車の代金債務は、すべて約定どおりに支払われた。
以上のとおりであり、≪証拠≫中、右認定に反する部分は採用することができないし、他に右認定を左右するに足りる疏明資料はない。
ところで、本件取引において上越建機の代金債務完済まで本件各自動車の所有権を控訴人に留保する旨特約されたこと前記のとおりであるが、上越建機が右債務を完済したとの主張立証はなく、かえって≪証拠≫によれば、右債務は完済されていないことが認められるから、前記特約により本件各自動車の所有権は、依然、控訴人に帰属したままであることになる。それゆえ、本件各自動車の所有権がすでに被控訴人に移転している旨の被控訴人の主張は理由がない。しかしながら、控訴人は、その販売協力店である上越建機が、本件各自動車を被控訴人に売り渡す契約を既に締結していたことを認識しながら右各自動車をそれぞれの製造元から仕入れたうえ上越建機に売り渡したものであること、被控訴人は、上越建機との売買契約に基づき本件各自動車の引渡しを受け、かつその代金を完済したものであること、その他前記疏明事実関係のもとにあっては、控訴人が、上越建機の代金債務不履行を理由に、留保された所有権に基づいて顧客たる被控訴人に対し本件各自動車の引渡しを求めることは、本来、控訴人が販売協力店たる上越建機に対して負担すべき代金回収不能の危険を被控訴人に転嫁しようとするものであり、自己の利益のために代金を完済した被控訴人に不測の損害を被らせるものであって、権利の濫用に当り許されないと解するのが相当である。
(森 新田 真栄田)